派遣契約の労働時間内に業務が終わらなかったため、派遣先で残業を命じられたが
派遣先での時間外労働には要件が求められ、要件を欠く場合には命じられない

 
派遣先が派遣労働者に時間外労働をさせる場合には、(1)派遣元における36協定の締結・届出、(2)派遣元就業規則におけるその旨の記載、(3)雇用契約に際し明示された就業条件にその旨の条項があること、(4)派遣元派遣先間の派遣契約にその旨の規定があること、が要件となる。
 

 
派遣労働における派遣労働者・派遣元・派遣先三者の関係は上図のとおりである。
 

派遣事業のタイプ(登録型・常用型)

 
労働者派遣事業は、(1)特定労働者派遣事業(届出制)と(2)一般労働者派遣事業(許可制)とに分かれている。
派遣労働には、派遣会社の社員となる常用型と就労のたびに雇用契約を結ぶ登録型とがあり、相談に際してはどのタイプであるかを把握する必要がある。
 

紹介予定派遣

 
紹介予定派遣とは、派遣元から派遣先に、派遣労働者を職業紹介(雇用のあっせん)することを予定して派遣就業させるもの。2000年12月から実施され、2003年の労働者派遣法の改正(2004年3月1日施行)により、諸規定が整備された。
<紹介予定派遣のポイント>
(1) 紹介予定派遣の期間は、同一の派遣労働者について6か月以下とする。
(2) 派遣就業前の面接、履歴書の送付など、派遣先が派遣労働者の特定を目的とする行為を行える。
(3) 派遣就業前または派遣就業中に、求人条件を明示できる。
(4) 派遣就業中に、求人・求職の意思確認および採用内定を行える。
<紹介予定派遣の注意点>
紹介に至らなかった/紹介を受けたが雇用しなかった場合には、その理由を書面等で、希望する派遣労働者に派遣元を通じて明示しなければならない。
紹介予定派遣であることを派遣労働者に同意を得て、就業条件明示書等に記載しなければならない。
派遣労働者の特定にあたり、年齢・性別による差別を禁止する。
派遣先は、紹介予定派遣により雇い入れた労働者については、試用期間を設けないようにする。
 

派遣対象業務の拡大

 
2003年の労働者派遣法の改正(2004年3月1日施行)により、派遣対象業務が拡大され、これまで禁止されていた物の製造業務についても派遣が認められるようになった。
現在、派遣が禁止されている業務は以下のとおりである。
(1) 港湾運送業務
(2) 建設業務
(3) 警備業務
(4) 病院等における医療関連業務(紹介予定派遣以外の場合)
(5) 人事労務管理関係のうち、団体交渉や労使協議の際に使用者側の直接当事者として行う業務
(6) 弁護士、司法書士、公認会計士等の業務
 

労働者派遣のタイプと派遣可能期間

 
 

業務の種類

派遣受け入れ期間の制限
(1) 一般業務
(2)〜(7)以外の臨時的・一時的業務】
上限は最長3年。
※ただし、1年を超える期間派遣労働を受け入れる場合には、あらかじめ派遣受け入れ期間を定め、派遣先労働組合への通知・意見聴取が必要。(書面で3年間保存義務)

(2)

専門型26業務(注) 派遣契約の上限は原則3年。受け入れ期間制限なし。但し、3年経過後、同一業務のため新たに労働者を雇い入れようとするときは雇用契約の申し込み義務。

(3

有期プロジェクト型業務
(事業の開始・転換・拡大・縮小・廃止のための業務で一定期間内の完了が予定されている業務)
上限3年。更新不可。
(4) 産前産後休業、育児・介護休業の
代替労働者の派遣
休業が終了するまで。
(5) 「月初・土日」など日数制限の業務 期間制限なし
(6) 物の製造業務 2007年2月末までは、上限1年。
2007年3月以降は最長3年まで。
製造業務であって(2)〜(5)の業務に該当する場合は、(2)〜(5)が適用される。
(7) 中高年派遣
(45歳以上の特例措置)
2005年3月末までは、上限3年(物の製造業務は1年)

(注)専門型26業務とは
1)ソフトウェア開発 2)機械設計 3)放送機器等操作 4)放送番組等演出 5)事務用機器操作 6)通訳・翻訳・速記 7)秘書 8)ファイリング 9)調査 10)財務処理 11)取引文書作成 12)デモンストレーション 13)添乗 14)建築物清掃 15)建築設備運転・点検・整備 16)案内・受付・駐車場管理等 17)研究開発 18)事業の実施体制等の企画・立案 19)書籍等の制作・編集 20)広告デザイン 21)インテリアコーディネーター 22)アナウンサー 23)OAインストラクション 24)テレマーケッティングの営業 25)セールスエンジニアリングの営業 26)放送番組等における大道具・小道具
 

雇用契約の締結と就業条件の明示

 
派遣労働者は派遣元事業主と労働契約を結ぶ(登録型の場合は、派遣先が決まった時点で派遣期間に対応する雇用契約を結ぶ)。派遣先会社と派遣元会社との労働派遣契約で定めた就業条件【(1)業務の内容・場所、(2)指揮命令者、(3)派遣期間、(4)就業時間と就業日、(5)時間外・休日労働、(6)福利厚生施設の利用など)の書面交付を受けて就業する。この場合、厚生労働省モデルに従った書面交付が、行政指導されている。また、派遣元との雇用契約では労基法による労働条件の書面交付は当然のことであり、安全衛生に関する配慮も必要である。
→モデル就業条件明示書【PDFファイル】
 

労基法等の使用者責任

 
労働者派遣法では労基法等で定める使用者の責任を、派遣元・派遣先事業主にそれぞれ負わせている。
労働時間の枠組みの設定は派遣先が行うが、派遣先が派遣労働者に時間外労働や、休日労働を行わせるためには、派遣元が36協定の締結、届出を行い、労働者へ周知することが必要である。
また、派遣先で契約内容以外の業務を指示されてもそれに応じる必要はなく、その場合には派遣元を通じて確認・是正を求めるべきである。

【派遣元会社が責任を負う事項】

【派遣先会社が責任を負う事項】
(1) 労働契約
(2) 賃金(時間外等の割増賃金を含む)
(3) 変形労働時間の定め、時間外・休日労働の協定の締結・届出
(4) 年次有給休暇
(5) 産前産後休業
(6) 災害補償
(7) 就業規則
(8) 一般的健康管理(定期健康診断等)のための衛生管理体制
(9) 雇入れ時安全衛生教育
(1) 労働時間、休憩、休日、深夜業の管理
(2) 育児時間の管理
(3) 生理日の就業が著しく困難な女性に対する措置
(4) 安全衛生管理体制(一般的健康管理を除く)
(5) 労働者の危険または健康障害を防止する措置
(6) 就業制限等
派遣元会社の講ずべき主な措置は 派遣先会社の講ずべき主な措置は
(1) 労働者派遣契約の締結にあたっての就業条件の確認
(2) 労働者派遣契約の解除に当たって講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置
(3) 適切な苦情の処理
(4) 労働・社会保険の適用促進
(5) 派遣先との連絡体制の確立
(6) 派遣労働者に対する就業条件の明示
(7) 労働者を新たに派遣労働者とするにあたっての不利益取扱いの禁止
(8) 派遣労働者の福祉の増進
(9) 関係法令の関係者への周知
(10) 個人情報の保護
(11) 派遣労働者の特定を目的とする行為に対する協力の禁止 等
(1) 労働者派遣契約の締結にあたっての就業条件の確認
(2) 労働者派遣契約に定める就業条件の確保
(3) 派遣労働者の特定を目的とする行為の禁止(紹介予定派遣を除く)
(4) 性別による差別の禁止
(5) 労働者派遣契約の定めに違反する事実を知った場合の是正措置等
(6) 労働者派遣契約の解除に当たって講ずる派遣労働者の雇用の安定を図るために必要な措置
(7) 適切な苦情の処理
(8) 労働・社会保険の適用促進
(9) 適正な派遣就業の確保
(10) 関係法令の関係者への周知
(11) 派遣元事業主との労働時間等に係る連絡体制の確立
(12) 派遣労働者に対する説明会の実施
(13) 派遣先責任者の適切な選任及び適切な業務の遂行
(14) 労働者派遣の役務の提供を受ける期間の制限の適切な運用
(15) 安全衛生に係る措置 等
 

契約解除と休業手当

 
派遣元・派遣先間の労働者派遣契約が解除された場合でも、それは派遣労働者と派遣元の雇用契約の解除ではない。登録型の場合でも、当初の雇用契約期間が満了するまでは、別の派遣先における仕事を要求する権利がある。なお、常用型では契約期間内の賃金が支払われない場合は、休業手当を請求することができる。
 

解雇

 
常用型派遣労働者も解雇には正当かつ合理的な理由が必要であること、30日前に予告するか、又は30日分の解雇予告手当が必要であることなどは一般労働者の場合と同じである。また、業務上の傷病のため療養する期間及びその後30日間、産前・産後休業期間及びその後30日間の解雇制限についても同じ。
 

派遣先による直接雇用の申し込み業務

 
<派遣期間制限のある業務>
(1) 1年以上、同一業務に同一派遣労働者を受け入れており、派遣就業が終了した後、同一業務に新たに労働者を雇い入れようとする場合は、継続して従事したその派遣労働者を、直接雇用する努力義務が発生する(以下の2条件を満たす派遣労働者の場合)。
 
条件(1) 派遣先に雇用されて同業務に従事する希望を申し出ている。
条件(2) 派遣就業が終了した日以後7日以内に派遣元事業主との雇用関係が終了する。
(2) また、派遣可能期間(最長3年)がきたにもかかわらず、引き続き派遣労働者を使用しようとする時には、期間制限を超える直前に受け入れていた派遣労働者が直接雇用を希望する場合は、その派遣労働者に雇用契約の申し込みをしなければならない。期間中に派遣元や派遣労働者が交代した場合でも同様。
<派遣期間制限のない業務(26業務など)>
同一業務に同一派遣労働者を3年を超えて受け入れており、その同一業務に新たに労働者を雇い入れようとする場合、その派遣労働者に対して雇用契約の申し込みをしなければならない。
 

雇入れ勧告と違反企業名の公表

 
上記の義務違反の場合、厚生労働大臣は、派遣先に派遣労働者を雇い入れるよう指導・助言・勧告し、これにも従わない場合には、厚生労働大臣は企業名を公表できる。
 

雇用保険

 
事業所に雇用される労働者は、原則として被保険者となる(例外:下記参照)ので、派遣労働者の場合も同様の扱いとなり、派遣元での加入となる。登録型派遣労働者の場合は以下の(1)、(2)に該当する人が、被保険者となる。
(1) 反復継続して派遣就業するものであること
 
(1) 一の派遣事業主に1年以上引き続き雇用されることが見込まれるとき。
(2) 一の派遣事業主との間の雇用契約が1年未満で(1)に当たらない場合であっても雇用契約と次の雇用契約の間隔が短く、その状態が通算して1年以上続く見込みがあるとき。この場合、雇用契約について派遣先が変わっても差し支えない。
(2) 1週間の所定労働時間が20時間以上であること
適用されると思われるのに派遣元が加入してくれないような場合には、派遣元を管轄するハローワーク(公共職業安定所)に相談すること。
 

社会保険

 
健康保険と厚生年金保険についても、適用除外と労働時間の4分の3要件(パート社会保険参照)に基づき、派遣労働者は派遣元で加入する。登録型の派遣労働者の場合は、派遣先で同じような仕事に従事している人と比較して判断され、雇用期間が2か月を超えると加入できる。加入資格については、個々の具体的事例で判断されるので、社会保険事務所で問い合せること。
 

労働・社会保険の加入の有無の通知

 
派遣元は、派遣しようとする労働者の社会保険・労働保険の加入の有無について、派遣先に通知しなければならない(派遣法第35条第2項)。また、労働・社会保険の適用手続きを適切に進め、労働・社会保険に加入する必要がある派遣労働者については、加入させてから派遣を行わなければならず(派遣元指針)、派遣先も、労働・社会保険に加入する必要がある派遣労働者については、加入している派遣労働者を受け入れることになっている(派遣先指針)。
 

通勤費等の特定支出控除と所得税還付

 
一般的に給与所得者の通勤手当は、1か月最高10万円までは、課税されないことになっている。しかし、賃金が、「通勤手当」と区分されていない、いわゆる通勤費込みの賃金体系となっている場合(登録型に多い)は、非課税の扱いを受けることができず、賃金全体が課税の対象とされる。
ただし、特定支出(通勤費・研修費・資格取得費等)の合計額が給与所得控除額を超える場合には、給与所得控除後の給与等の金額からその超える金額を差し引ける制度がある。確定申告し、所得税の還付を受けることができる(特定支出控除)。この申告のためには、雇用先の証明書や、領収書等の書類が必要。

(参考)

例えば、平成○年分の給与等の収入額が500万円の人の場合は、1年間の特定支出の合計額が154万円を超える場合に、特定支出控除の適用を受けることができる。
給与所得控除額(例)

給与等の収入金額

給与所得控除金額
100万円 65万円
300万円 108万円
400万円 134万円

500万円

154万円

給与等の収入金額

給与所得控除金額
600万円 174万円
700万円 190万円
1,000万円 220万円

2,000万円

270万円
 

苦情の申し出と不利益扱いの禁止

 
派遣元には派遣元責任者が、派遣先には派遣先責任者が選任されており、苦情申し出を受けた両責任者は互いに連絡をとり合い誠実に対処しなければならない。
法違反の事実がある場合には派遣労働者は厚生労働大臣に申告することができる。派遣元と派遣先は労働者が苦情を申し出たこと、厚生労働大臣に申告したことを理由として解雇その他の不利益な取扱いをしてはならない(49条の3)。不利益取扱いを行った派遣元および派遣先は、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金(60条)。
 

派遣労働者の労働組合の結成・加入

 
派遣労働者も労働組合を結成または加入して、団体交渉することができる。
登録型の派遣労働者で、まだ労働契約を結んでいない人も、労働組合の結成・加入ができる。登録型の派遣労働者の場合は、数社に登録していて派遣元が特定できないこともあり、まとまるのは困難かもしれないが、同じ職種の人でまとまって労働組合を結成したり、職種別・職能別の労働組合や、個人で加入できる地域の労働組合(合同労組)に加入して、会社と交渉していくことが望ましい。

<団体交渉、不利益取扱いの禁止>

派遣労働者の交渉相手は、直接雇用契約を結んでいる派遣元であるが、派遣先での労働条件と密接に関係する内容については、派遣先と団体交渉ができることもある。また、使用者は、労働組合の正当な活動を理由に、労働者派遣契約を解除することはできない(派遣法第27条)。労働組合員であることや、労働組合の正当な活動を理由に、解雇等の不利益な取扱いをすることも当然禁止される(労働組合法第7条)。

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